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じもラブ Vol.02 下部温泉 源泉館 依田由有子さん

江戸時代から続く「古湯坊 源泉館」。一人娘として生まれた依田由有子さんは、進学、結婚で一時は下部を離れたものの、30歳の時にご主人と一緒に戻り、以来、古くから伝わるお湯を守ってきました。
 江戸時代から続く「古湯坊 源泉館」。一人娘として生まれた依田由有子さんは、進学、結婚で一時は下部を離れたものの、30歳の時にご主人と一緒に戻り、以来、古くから伝わるお湯を守ってきました。
下部温泉に訪れる人は、体のどこかに痛みを抱えている人。人知れず悩んでいる方も珍しくありません。そうした方々を笑顔で迎え、包み込むようにもてなす名物女将に、身延愛を語っていただきました。

世界にたった一つの湯を守り、つなげていく

源泉館おかみ

 ここは、すごく田舎でとても不便な場所。今は通販もいろいろとあってかなり便利にはなったけれど、それでもやっぱり不便ですよね。でも、ここにしかないものがある。それは温泉ですね。だから、私はここにいる。重い意味じゃなくてね、ここにしかないものを、伝えていく、守っていく使命があると思っています。もちろん、必要があるから、そうしているんですけれど…。必要とする人がいなくなれば、すぐになくなる物なんじゃないかなと思うんですよね。

 じゃあ、必要とする人は誰かと言えば、ここに来る人は、ほとんどがどこかに痛みを抱えている人です。例えば先ほど帰られた方も、大きなやけどの傷跡があって、今回、久しぶりに来たら、温泉が染み込むようだったって、それをすごく感じることができたって嬉しそうに話してくれました。とても良いお話が聞けて私も嬉しくなりましたし、そういう方がいる限りは、やっぱり守っていく使命があると感じますね。

体の傷、心の傷…治したいところは人それぞれ

 下部温泉の特徴は、泉質の良さですよね。この地域には3つの源泉があって、その一つがうちのお湯なんですけれど。武田信玄公が4回目の刀傷を癒したとも伝えられている、30度前後のぬるい温泉なんですよ。
 細かいことを言うと、温泉って空気に触れた瞬間から劣化が始まるんですって。その点、うちの大岩風呂は温泉が湧き出る岩盤に栗の板を敷いているだけですから、湧き出たばかりの新鮮なお湯に浸かっていただける。そんなことも良いのでしょうね。とにかく体に良いようで、「長年の腰痛が楽になった」「事故の後遺症の痺れがなくなった」など、いろんな方から嬉しいお便りをいただいています。

 お医者さんは手術をして悪いところを取ってしまえば、「治りました」ってことになるのでしょうが、実際には、違和感や痛みが残る場合もありますよね。術後、半年、一年と経つなかで違和感を持ち続けている人もいる。そうした方がじっくりと治しに来られることも多いですね。あと、意外と多いのが乳がんの方。乳がんの手術痕は女性同士でもはばかられると言われますが、うちは混浴で、体を洗った後、みんな湯あみ(タオル)を巻いて浴槽に入ることがお約束になっているんですよ。それがかえって気が楽だとおっしゃる方もいらっしゃいます。
源泉館岩風呂
 それから心。傷って時と共に癒されるけれど、心はなかなか完解というわけにはいきませんよね。でも、通っていただくうちに傷が確実に良くなっていきますから、そうなると、下を向いていた顔が前を向くようになり、表情も豊かになっていくということがあるんです。内臓系の疾患の方もそうですよ。傷がきれいになるに従って胃や腸の調子も良くなっていくようですし、その様子に「ずいぶん顔色が良くなりましたね」なんてお声をかけさせていただくと、その一言でまたグーンとお元気になられます。実は、おしゃべりも治癒にはとても大事なことなんですよ。人間って、自分で感じるよりも、他人から言われることで実感できるってこと、たくさんあるでしょ。
 
 気分転換も大切ですよね。今は温泉街をそぞろ歩くなんてことは難しくなっていますが、女将会でも毎月お掃除させてもらっている「熊野大神社」は、神様が見守ってくださっていると実感できるパワースポット。私も大好きな場所なので、湯治の合間にお参りしてもらえたらと思いますね。
熊野神社

1日でも湯治。心が疲れた人も来て欲しいですね。

 最近増えているのが、静かな環境で自分らしく過ごしたいと来られる方。今の世の中、いろんな場面で競争したり、急いだり…。流れに同じように追いつけない人もいっぱいいるわけですし、自分の思いとのひずみってどうしても出てきますよね。
 そうした方にとっては、この環境にいること自体が癒しにつながるようで、滞在中は度々お風呂に入りながら、お部屋で本を読んだり、この辺りを散策したりしてゆっくり過ごしておられます。自分を俯瞰して、心と体のバランスを整える時間っていうのかな。なかにはパソコンを持ち込んでお仕事をされている方もいらっしゃるようですけれど、みなさん、お越しになった時とは見違えるような生き生きとした表情になって帰って行かれますよ。

 「湯治十日」といわれますが、今いる環境を変えることも湯治効果のひとつ。そういう意味では1日でも立派な湯治だと思うんですよ。下部温泉には、現在15軒のホテルや旅館があって、若いおかみ達も頑張っています。いわゆる温泉街の賑わいはありませんが、体だけでなく心が疲れたときにも湯治に来ていただき、元気になっていただけたらと思いますね。
源泉館

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